上毛労務 薗田直子です。
先日、ある社長との会話で「理念を浸透させるって、具体的にはどんなことなのかな」という話題になった。
例えば『顧客志向のモノづくり』という理念には、どういう意味や思いが込められているのか、そのフレーズだけは理解することは難しい。
経営者や役職者がそのフレーズに込められる意味を咀嚼して話す。「初めて顧客に感謝された話」「結果がでなくて窮地に陥ってから挽回していく話」・・・フレーズでは伝わりにくい思いや価値観をストーリーにして伝えることで理解は深まる。
クレドや経営理念をストーリーとして語る「ストーリーテリング」は、ビジネスの世界でかなり普及している。だが、ストーリーとして語ることで社員は理解はすれども、なかなか行動や意識を変えるところまで至っていない。そんな話もチラホラ。理念が行動まで結びつく間には、いくつかのステップが存在する。
一方、社員が語る「うちの会社は・・・・」は、どんなところから発せられるのだろう。
「すごく自由な雰囲気だけど、組織としてのまとまりがないんだよね」「決められたことはコツコツやるけど、時代の波にはのれないんだよ」・・・それぞれの言葉で語られる「我が社」は、決して一方的な押し付けや命令によってアウトプットされたものではないはずだ。
それぞれが会社生活で日常的に経験し、見聞きしたことが、各自の中で意味づけされ、アウトプットした結果だ。それが社員の感じている組織文化に他ならない。
「文化をともにすることは、共通経験に関する物語を語ることだ」心理学者カール・ワイクの言葉がある。
上からのワンウェイな語りではなく、一人一人が「仕事のありかた」「商品の意味」「顧客へのスタンス」を自分のエピソードに基づいて語り、意味づけけていくことが、「価値観」や「理念」を深めていくことにつながる。考えを深めるステップは他者との語りで生まれてくる。ここで主眼になるのは正解、不正解ではないと思う。
もちろん、ビジネスの場なので「判断」が必要な場面もあるが、「判断」の裏側にどんな意味、背景があるのかを掘り下げて考えることが「価値観」のすり合わせに繋がるのではないか。
多様性が増し、物事に対する考え方の違いも今より当然多く生まれてくるだろう。「何が正しい」ではなく「何故そう考えるのか」を互いに語り、互いを知り、自身の考えを深めていく。
理念を浸透させるヒントになるように思う。