残業代ゼロ法案

上毛労務 薗田直子です。

先週から『残業代ゼロ法案』の文字がメディアに多く登場するようになりました。
労働基準法の大きな転機となる改正案、一体どういうものなのでしょうか。

そもそも現状の日本の法律は「時間」に対して賃金が支払われる制度です。他人の倍のスピードで仕事をしても、やることなく電話番だけしていても、それはそれで「会社の指揮命令下」にある『労働時間』として一律に取り扱われます。もちろん時給単価を決めるのは会社の自由。「時間」に対しての報酬なので、成果を出すため最適な指示や配置をするのは会社の役目としています。
戦後まもなく、工場等での一斉作業を前提に考えられた法律です。

時は平成に移り、昔は無かった仕事が世の中に誕生します。ゲームソフトのプログラミングやインテリアコーディネーター等、仕事の進め方や時間配分を「本人の裁量に委ねる業務」限定で、時間の制約を緩めた『裁量労働時間制』が可能になりました。出勤して1時間だけ勤務をしても、15時間勤務をしても、労働時間は同じ1日〇時間と「みなす」制度です。
通常の勤務は〇時間とみなしてカウントされ、休日、深夜の規定は従来通り、割増賃金支払いの義務が生じます。

そして今回の「残業代ゼロ法案」、正式には『高度プロフェショナル制度』
経済のグローバル化が進む中で、高度な専門知識や経験を必要とし、時間ではなく「成果」で評価される業務を対象に、労働時間、休憩、休日について、現行の労働基準法の制約を受けない=残業という概念がない(残業代ゼロ)の制度として考えられています。
具体的には、金融ディーラーや研究開発、コンサルティング等の業務を想定しています。

運用には、いくつかの要件があります
・労働者の書面での個別同意が必要
・年収1075万円以上(全労働者平均年収の3倍を上回ること)

そして、今回連合が出した要件は
・年間休日104日以上の義務化
・健康対策4つの選択肢からの企業選択により実施
これらを修正案に織り込み秋の臨時国会での審議予定となっています。

この法案、2年前に閣議決定されましたが、野党、連合の大大大反対で国会で審議されることなく見送られた過去があります。
年収1075万円以上は中小企業では滅多に該当しないと思いますが、前身となる「ホワイトカラーエグゼンプション」では年収900万以上で検討され、さらに経団連は年収700万円以上という案を掲げていました。一度決定された後、時代により年収要件引き下げの可能性も大いにあります。
「残業代ゼロ」ばかり注目されますが、今回の改正案には中小企業に大きく影響がでそうな事項がいくつか含まれています。次回は、その話をしたと思います