電話の向こう側の誰か

上毛労務 薗田直子です。

コールセンターや役所などに電話をかけると、何度も番号+#を押したり、呼出音が延々と続いたり結構な割合で待たされる。あまりにも待たされると、窓口の担当者とつながった途端「フー、やれやれ」とおもってさえしまう。

目に見える行列は状況を把握し待つことを想定できるが、電話の向こう側は当然見えない。相手の忙しさや混雑具合はわからず、呼び出しの時間が長く感じる。その状況にイライラし、強く当たる人も多いのだろう。コールセンターのオペレーターは、ストレスの多い職種として常に上位に挙げられている。

韓国の石油会社のコールセンターで、メロディーでの呼出音や機械的な音声アナウンスに替え、そこで働くオペレーターの家族の声を録音し流すことにしたそうだ。

電話をかけるとオペレーターに繋がるまでに
「優しくて、働き者の娘がご案内します」という父親の声や
「世界で一番大好きなママが電話にでますから、ちょっとまっててくださいね」というお嬢ちゃんの声が流れる。

目に見えない電話越しのオペレーターも、誰かの娘であり、ママであり、一人の人間なんだ、ということを思いだして欲しいという取り組みだ。
実際、電話をかけた顧客から「ありがとう」「お疲れ様」という声を掛けられる回数がグッと増えたという。結果、オペレーターのストレスも半減し仕事への意欲が増したそうだ。

仕事の上では、その人本来の感情や考えを抑えて、求められる役割や任務を演じる場面も多い。自身の裁量が少ないオペレーター業務ではなおさらだ。定型的に決められたことを互い淡々と行う業務は、やがてAIにも代替される日もくるだろう。
あたりまえだが「人として」相手を気遣い接すること。それだけで生まれる温かさがある。